ABLActivity Based Learning
2017.02.16

スカラー候補生 定例プログラム

見えないものを見る力

皆さんの記憶の中にも忘れられない「思い出の味」はあるだろうか?

 

今年度のPBL(Project Based Learning)の一つとして、「心に刻まれた思い出の味を探す」という何ともロマンチックな「ワッフルプロジェクト」が始まっている。ディレクターの思い出のワッフルの味を完璧に再現することができたら、その味に出会いにミネソタへ行くことができる。

 

ワッフルを焼くだけでアメリカに行けるなんて夢のようなミッション。子どもたちが広大なアメリカをイメージして目を輝かせたのも束の間、しょっぱなから難題が降りかかった。思い出の味について語るディレクターから「酸っぱいワッフル」という予想外の言葉が飛び出したからだ。

 

酸っぱいワッフル!?ワッフルといえば甘くてフワフワなものでは?酸っぱいワッフルなんてワッフルじゃない!

 

「酸っぱいワッフル」とは、一体何の酸味なのか?そのヒントはディレクターという他人の頭の中にしかない。答えを引き出すのは言葉のみ。謎の酸味を出す「あるもの」の正体を突き止めるため、子どもたちから質問が矢継ぎ早に飛び交った。「上品でまろやかな酸味」「ツンと来るけど嫌味じゃない酸味」「酸っぱいパンに似た酸味」「ビールのような香りのする酸味」「大人の渋いワッフル」…。言葉のキャッチボールを重ねるうちに、酸味の正体にぼんやりとした輪郭が現れてきた。そしてとうとう、子どもたちは「サワドゥ」という一つのキーワードに辿り着いた。

そう、思い出の味はどうやら「サワドゥ」という天然酵母の発酵に由来しているらしい。確かに天然酵母パンも独特の酸味がある。インターネットで調べれば、サワドゥのレシピはすぐにヒットした。けれど、作り方を調べる事と実際にそれを作る事、そして記憶の味を完璧に再現する事はいずれも全く似て非なる行為だ。サワドゥを作る過程では、見えない酵母菌を活発に動くよう操らなければならない。気温や湿度、粉の種類に水分量といった、細かな要素の組み合わせにより醸し出される息吹のようなものを感じ取れなければ、僅かな変化でも菌にとっては死活問題だ。

 

まさかワッフルの酸味が微生物によるものだとは!見えないものが相手だとすれば、これは大変手間のかかるワッフルになることは間違いない。見えないものを想像し、推理し、仮説を立てて検証する。その中で手立てを見つけていくしかない。小さな生き物を操るなんてそう簡単にできることではない。

 

サワドゥ・ワッフル作りで酵母と格闘し続ける子どもたちを見て思う。人の心も同じだと。サワドゥを通して見えないものを見る力を高めていた彼らは、いつの間にか心理学者と同じサイエンティストの視点で菌と対峙しているようだ。簡単に見えないからこそ、いくつかの大切な視点に気がつくようになる。それこそが、実は様々な物事に対する上で重要な視点になっていくという事に彼らが気づくのは、酸っぱいワッフルが成功する、ずっと先の事かもしれない。

 

私たちのサワドゥ・ワッフルを食べたディレクターの口からは「この味ではない」という何とも苦い一言しか引き出せなかった。酸っぱい味を求めて、プロジェクトはどんな展開になるのかまだ見えない。だからこそ面白くなる予感がしている。

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