ABLActivity Based Learning
2017.09.27

スカラー候補生 定例プログラム


福島智(バリアフリー研究者)

第3期プログラムのまとめのテーマは「道」。子ども達は「中山道を歩く」というプログラムに参加した。江戸と京都を結ぶ中山道。子どもたちは日本橋を出発し、最終日のセミナー会場である軽井沢を目指して歩き出した。途中には中山道の難所「碓氷峠」が待っている。

 

碓氷峠を越える日は8時頃には歩き始めた。軽井沢までの道のりは距離にして14kmほどだが1500mの高低差のある山道だ。最寄りの駅から1時間も歩くとひと気も少なくなり、次第に江戸時代と変わらぬ景色の山道となる。その道中は、ユニークな子ども達らしい歩み方だった。

 

一番目を引いたのは、キャリーケースで山を登る子がいたことだ。 どう考えても山道をキャリーケースで進むのは大変なだけだろうが、本人言わく『これが良い、行けると思うんです』。スタッフから危険について何度も説明したが、本人の希望は変わらなかった。

 

結局は見事にキャリーケースで碓氷峠を越えた。それどころか先頭を引っ張る時さえあった。

 

歌うことが好きな子の歌は天然の熊避けとなった。道を外れて植生を調べてなかなか前に進まない子もいれば、江戸時代の人になりきって妄想しながら道を進む子もいる。猿の群れに取り囲まれることもあったが、そんな時は普段からイノシシ狩りで山に入っている子が慣れた感じでみんなを束ねていた。バラバラな個性を持つ子ども達も、うまく互いが組み合わさればここまで良いチームになるのかとさえ思えた。

そんな道のりを10時間近く歩き、ようやく宿泊地の軽井沢駅付近にたどり着いた頃には雨が降っていた。ホテルまであとちょっと。そんな矢先にディレクターが追いかけて来た。

 

「手違いでホテルが4人分足りない。何とか代わりに宿がとれたけど、とても古く相部屋で、これからまだ30分以上歩かないといけない。誰か行ってくれる人はいないか?」

 

数分の沈黙の後、別の宿までさらに歩くチームが決まった。

 

すぐ近くで個室のホテルに泊まる子ども達、かたや、強まる雨の中を更に歩いて相部屋の古い宿を目指す子ども達。

 

別の宿を選んだ子どもの一人がそれとなく理由をつぶいた。

 

「仕方ないのだから、それなら偶然な状況を楽しもうとした方が得じゃないですか。」

 

雨足の強まる中で、子ども顔は冷えた体を温めるお湯と温かな食事がありさえすればそれだけで充分だと言わんばかりの表情だ。しかし辿り着いたのは、なんと軽井沢宿で最も古い伝統ある宿だった。

 

ハプニングの中、致し方ないとも言える選択をして行き着いた出来事に、子ども達は格別な様子であった。想定外の事態が起こり、見通しの立たない状況に置かれたとしても、視点を変えて自らの『道』を選択しさえすれば、想像を超える出会いや景色に辿り着けるのかもしれない。

 

そして最終日。子ども達は福島智氏の「自分らしく歩く」という講義を受けた。その言葉は力強く、そして終始シンプルなメッセージだった。

 

「自分で決定して自分で責任をとる生き方をしなさい」

 

福島氏は、9歳で失明し18歳で聴力も失った全盲ろうの研究者だ。現在は、東京大学先端科学技術研究センター教授としてバリアフリー研究に取組む。

全盲ろうになった当時、一番しんどかったのは、人とのコミュニケーションがとれなくなったことだったそうだ。その中で指点字という方法を考え、再び人とコミュニケーションができるようになった。その時に、コミュニケーションには人の命を輝かせるために非常に大きな意味があると実感したという。

 

福島氏は自分の置かれている困難な状況に立ち向かうことを自らの使命として、バリアフリー研究に取り組むことを決めた。その後、盲ろう者としては日本初の大学進学者となり、世界で初めて常勤の大学教員になった。

 

「前例がなければ、前例になればよい」

 

一見「できっこない」と言われる状況であっても、自らで決断し、行動し、責任をとる。福島氏は道なき道を歩み、後に続く多くの人の「道」を作り上げてきた。中山道を歩き、福島氏のメッセージに辿り着いた子ども達の表情は明るかった。

関連するプログラム