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2018.07.04

君は釘を作れるか!〜物性の神秘に迫る〜

日本刀を拵えることのできる刀匠は、いま日本全国に約300名しかいないと言われている。この報告書を読んでいる方たちの中に実際に刀鍛冶と出会い、日本刀を作るさまを間近で観たことのある人達は一体どれくらいいるだろうか。今回、我々は現代刀匠の一人である松田次泰さんの工房に2日間滞在することを許された。我々が勝手に定めた一つの目的は、実際の刀作りの現場を通して、職人的洞察と現代科学の切り口の違いを身をもって知るということであった。

千葉での刀匠宅での初日、まずは刀匠から日本刀の歴史そしてその存在意義について説明を受けた。その後、日本刀の作製過程の一つを間近で見ることができた。普段の生活において、あんなにも大きなパチーンという音を、そして鋭い閃光を目にすることは滅多にないと思う。はじめこそ皆少し怖がりながら眺めていたが、そのうちそこにいた全員がジッとその様子を見つめていた。刀匠いわく、彼の中にはこうすれば良い刀ができるという、いわゆるコツみたいなものがあるとのことだった。

その日の夜、刀匠がこれまで作製してきた日本刀を実際に手にとり観察することを許された。現代に生きる刀匠達の夢は、鎌倉時代に作られた刀(鎌倉刀)を再現することにある。いわゆるレシピのような物は一切残っておらず、あるのは国宝となった現物だけである。それを目で見て観察し、自らが拵える日本刀と見比べることでのみ鎌倉刀に近づけていく。そんな作業を彼らは何十年も続けているという。

2日目、刀匠宅のお庭をお借りして、我々も鉄を火で熱し、そして鎚で叩かせてもらった。もちろん日本刀ではなく、火箸(風鈴)を作ることを目的としてである。計5時間位叩かせてもらっただろうか、鉄製の丸棒を延ばし箸の形にしていくという作業がどれほど難しいものかを痛感した。しかし、多くの子供達は刀匠やその息子さんに質問しながら鎚を打ち続けていた。どうしたらもっと美しい形状に変化させることができるのか、刀匠達が言わんとしている事は何なのか、ずっと考えながら打ち続けているように見えた。

3日目、この日は東工大にて、材料科学を専門とする村石先生と渡邊先生に現代製鉄技術や金属接合技術について講義をして頂いた。我々の生活に欠かせない巨大建造物(建物・飛行機・船など)の材料はもちろん金属である。その金属どうしの接合手法には様々な種類が存在し、特に爆発を用いた新しい接合手法が注目されていることを教わった。その接合面にはメタルジェットと呼ばれる特徴的な波紋が現れる。また、金属の変形を現代的な材料科学で理解するには、転位と呼ばれるミクロな現象が鍵となることを教わった。午後は渡邊先生の実験室にお邪魔し、実際に我々の生活を支えている鉄(鋼)を現代製鋼の手法で作製する過程のデモンストレーションや、電子線顕微鏡を用いた評価手法について学ばせてもらった。しかし、専門家の先生達いわく、日本刀の素材となる鉄(鋼)については実はよくわかっていないという事実を教えて頂いた。なぜならば日本刀の内部構造は結晶ではなく非晶質になっているため、一部分の観察では全体の性質を捉えきることができないからである。

現代科学は基本的に還元主義の立場にあると私は思う。自然を広く理解するため、まずは対象とする現象の素過程そのものに着目し、それを理解することを目指すという考え方である。一方、私が思うに刀匠達はそれを行わない。五感を使った全体的な観察のみをもって、なぜこのような結果になったのかを考え、そしてその試行錯誤を幾度も繰り返し知見を集め、コツを掴んでいく。そういった意味で、鉄という同じ物を対象としているがアプローチの仕方が全く対極にある2つの探究活動を、子供達はこの3日間で体験したのだと思っている。(久富隆佑)

 

 

2泊3日の刀匠弟子入り・東工大での講義から数週間後、作製した火箸の音響の謎を探るべく、火箸が奏でる音波信号の物理解析を先端研の我々の実験室で行った。通常楽器の音色は奏でられる主音とその倍音の関係によって構成されている。マイクで拾った音をオシロスコープで可視化し、フーリエ解析によってどのような倍音が出ているかを皆で検証した。

同じ音程でも、声の「あ」と「う」はどう違うか、声と口笛の違いは?フーリエ解析を通して倍音を可視化することによりこれらの違いは顕著に現れる。その面白さに子供も我々も時間を忘れ遊び続けた。さて、いよいよ明珍火箸の出番、倍音の解析をするととても驚く結果が出た。これまで全ての音(口笛や声など)は主音の整数倍である、まさしく倍音で構成されていたのに対し、明珍火箸の場合は「倍音」ではなく、ほぼ2次関数にピタリとはまることがわかった。また音の伸びも段違いに良い、これらの結果に誰もが驚いた。
 火箸を共振器として扱い、音の周波数解析とエネルギーの散逸などを主題とする意図であったが、実験の結果から多くの謎も出てきた。「美しい音」とはなんだろう、2次関数で出た「倍音」はその音の美しさや澄んだ鳴りに関係しているのだろうか?職人の仕事、自分の五感、そこに潜む物理とその可能性に皆が歓喜した楽しい実験となった。
(山崎歴舟)

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