TTTop Runner Talk
2016.05.16

スカラー候補生 定例プログラム

切ることと仕上げることの違い
江崎弘樹(interaction hair design代表/トップスタイリスト)

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今回の講義室はいつもと違う雰囲気です。真ん中に回転椅子があり、その周りをスカラー候補生たちが取り囲んでいます。

2016年5月のトップランナー講義はインタラクションヘアデザインの江崎弘樹 氏。江崎氏はロンドン ヴィダルサスーンのクリエイティブディレクター(技術責任者)としてファッションショーやセミナーなど世界中の美容業界で活躍された経歴を持っています。

江崎氏は「僕の仕事は美容師です。簡単に言うと、人を喜ばせる、幸せにする仕事です」と自己紹介をしました。そして、「ヴィダルサスーンという人のスタイルに憧れてロンドンへ行きました。とにかく勉強が嫌いだったから、最初は英語も話せなかったんですけど、どうにか12年間、イギリスのサロンでディレクターをしました。」

そして、江崎氏はスライドを見せながらヘアカットの技術について話し始めました。しかし程なく「こんなん話していても面白くないので、とりあえず切りましょう」と笑って中央の回転椅子へ移動しました。

そこへ、ROCKETのプロジェクトリーダーの福本さんがヘアモデルとなって登場。ちなみに福本さんはロングヘア。10年間、短く切っていないそうです。

江崎氏は福本さんをパッと見て、手を福本さんの頭のてっぺんに置き、スカラー候補生の方を向いて話し始めました。

ヘアカットでは骨格・髪質・毛量・毛流を見て、丸・三角・四角というデザインの要素を当てはめて、形をデザインします。まず、頭の骨格の形を考えます。色んな顔があるように、骨格も人それぞれなんですよね。それから、髪質、毛量、毛流を見ます。福本さんは頭のてっぺんが少し平らですね。こうやって、骨格や髪をしっかり見て、似合う長さっていうのを考えます。

そしてスプレーで髪を湿らせながら、髪を切り始めました。

「なんで湿らすんですか?」「いい質問だねー」

江崎氏とスカラー候補生の間には自然に対話が生まれます。江崎氏はスカラー候補生とお喋りしながら、折々でハサミの使い方や髪を切るときのポイントについて説明します。

「僕も切ってもらえばかっこよくなるかなぁ。僕、世界で2番目にかっこ悪いから…」
江崎氏の物腰の柔らかさがスカラー候補生たちを素直にさせるのでしょうか、スカラー候補生からはこんな呟きも。江崎氏は「かっこよくなるよー、元々がかっこいいから、もっと自信をもつといいよ」と笑顔で答えます。

「どうしてそんなに自信があるんですか?」スカラー候補生が質問をしました。

それはね、練習したからだと思う。こうやって人前で髪切るってさ、ほんとに自信がなかったよ。だけど、いっぱい練習することと経験を積んだことによって、自信が出たのかな。僕はこういうことを24年間やっています。でもまだまだです。色んな発見があって、今も練習しています。やっぱり続けることっていうのが僕の財産かな。

対話を続けているうちに、福本さんの横顔は顎に沿って三角のラインに縁取られ、後頭部はきれいな丸みのショートボブに。そして、ヘアブローへと誘われていきました。

次に登場したのは中邑ディレクター。「30年間同じ髪型できたんですが」と言いながら回転椅子に腰掛けました。

スカラー候補生たちはざわめき立ち、「白髪がいっぱいだね、おじいちゃんみたい!」など、ここぞとばかりに中邑ディレクターをいじります。中邑ディレクターは、おいおい、と笑顔で応戦。

それを笑顔で眺めていた江崎氏が、「じゃあ、男らしくかっこよく、四角い形を作ろうと思います」と言って、中邑ディレクターの骨格や髪の毛を確認。

「メガネをかけるところも考えながら切るんですか?」
「ありますね。いつもメガネがかかっている所がはねたりしないように、とか、全体のことを考えないとね。僕たちの仕事は白いキャンバスに絵を描くことじゃないんですよね。その環境に合わせたデザインをする仕事」

そして髪の毛を切りながら、語り始めました。

ヴィダルサスーンという人が何をしたかって言うと、美容室に行く意味を変えたんですよね。それまでは女性はサザエさんみたいなヘアスタイルが多かったんです。美容室でカーラーを巻いて髪をセットして。だからヘアカットというのが重要じゃなかったんですよね。だけど、戦後、女性が社会に出るようになって、ヴィダルはもっと機能的な髪型ができないか、と考えたんです。その中で、バウハウスに影響を受けて、その時代の建築の理論をヘアスタイルにも応用させたんです。

スカラー候補生が「実用と特性か」と、以前、建築家の六角鬼丈氏から教わったことを呟きました。ヘアデザインと建築。一見異なる知識が、繋がっていきます。

そのうち、江崎氏は言葉少なになり、真剣な表情で髪の毛と向き合い出しました。その様子をスカラー候補生たちはタブレットPCで写真を撮ったり、絵を描いたり、ひたすら眺めたり、それぞれのスタイルで見入っています。そして、中邑ディレクターのヘアカットは完成。これで終了か、と思いきや、江崎氏は「まだだよ」と言って、ブローを終えた福本さんを中央の椅子へ座らせました。

そして、強い光を宿した目で、様々な角度からハサミを細かく動かし、髪の毛のラインを整えていきます。髪を揺らし、ラインを確認しながらハサミを入れる、という行為を何度も何度も繰り返します。その気迫に圧倒されたのか、スカラー候補生たちも無言になり、どんどんシャープになっていくラインを真剣に眺めています。

江崎氏のハサミの動きが止まりました。さあ、今度こそ完成か、と皆が一息ついたところで、江崎氏は「じゃあ、立ってください」と福本さんを立たせ、またハサミを入れ出しました。「体のバランスがすごく大事」。骨格をしっかり見ることの重要性を説明したときの江崎氏の言葉が蘇ります。

「はい、できあがり」。江崎氏が柔らかい笑顔に戻り、福本さんと共にみんなの方を向きました。なんと、福本さんの前髪は左上から右下に向かって斜めに切られています!「骨格に合ってたら、非対称でも面白いでしょ?逆に好きなところを伸ばすと、その人にとても似合うんです。」

そして、みんなの前に中邑ディレクターと福本さんが並びました。二人とも、髪を切る前とは別人のよう。スカラー候補生たちは興奮気味に写真を撮ったり、描いたデッサンを二人に見せたりしています。

スカラー候補生からは、「最初の技術はそれなりに、はぁはぁ、という感じだったんですけど、最後の三角のところとか、こまかーく切っているのを見て、一本一本(切っている)という感じで、あれは愛というか熱が伝わってきた。」という感想が。

これが「仕上げ」。スカラー候補生たちは、仕上げの姿勢や大切さを、江崎氏の仕事から身を以て学んだのではないでしょうか。

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