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2016.09.26

スカラー候補生 定例プログラム

多文化を理解した教育に学ぶ
小林りん(社会起業家)

小林氏は、日本で初めての全寮制の国際高校、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢「ISAK」(在学生の奨学金支給率約7割、以降「ISAK」と省略)を2014年に開校しました。その原点は、自身が公立高校を1年で中退した後、経団連からの全額奨学金をうけ、カナダの全寮制インターナショナルスクールに留学、その留学時に直面した世界の貧困という現実。そういった強烈な原体験にあります。

 

その後フィリピンのユニセフで最貧困層の子供たちへの支援も経験した小林氏。それぞれの個性を認め、長所を伸ばし、多様性を大切にした教育を行うことで、豊かな社会を作る事ができる。という強い思いを抱き、始めたのがISAK。既存の学びに満足いかない子ども達や、貧困層の子ども達の教育機会の喪失。これらに真っ向から立ち向かってきた小林氏の苦難の道程には、何があったのか。何を学んできたのか。バイタリティあふれる小林氏がスカラー候補生達に語り始めました。 

 

まずは、小林氏が理事を務めるISAKについて。スクールのミッションは、

「アジア、太平洋地域、グローバルな社会の為に、新しいフロンティアを作り出す人」つまり、新しい価値観、誰も考えた事が無い事を世の中に送り出したり、既存の価値観を創造的に破壊することで何か新しいものを作っていくような人が巣立っていける学校、という事。

 

そのためには養っておく3つの力があるといいます。それは「多様性を活かす力」「問いをたてる力」そして「困難に挑む力」。

 

まず、多様性を活かす力のためにしているのは、給付型奨学金と全寮制。生徒の状況に応じた奨学金を給付する事で、世界中から多様な人材を受け入れ、国籍だけでなく、社会経済的にも様々なバックグラウンドや価値観(政治、経済、歴史、宗教、その他)を持つ仲間との寮生活を行う、いわゆる「多様性のある環境」で学校生活をすごす事で、自分と他者の違い、異なる仲前への共感を高めながら、自分の立つ場所から変革を起こせる力を育成しています。

 

次に問いをたてる力。与えられた問題を解決するだけではなく、物事を俯瞰し、自ら問題を発見する力を養っていく。自ら立てた問いはすぐに答えが出なくてもいい。時間がかかっても、自分や周りに問い続けること、この力がとても大切なのだそうです。

 

最後に困難に挑む力。言うまでもなく、生きていれば、色々な困難があります。それに怯まず、笑って立ち向かって行ける力を身につけることが大切だと小林氏は微笑みます。軽井沢の大自然の中で行うアウトドアプログラム、生徒主導による学校運営等、生徒自身が責任を持って判断する経験の場を提供し、失敗を恐れずチャレンジし続ける精神を養っています。

 

こうして、生徒一人一人がそれぞれにやりたい事を考え、それを実現していく手助けをするのが生き甲斐だと、小林氏は情熱的に語ってくれました。

次にISAKの概要について語ってくれました。概要は以下の通り。

・日本で最初の全寮制国際学校として2014年に開校

・生徒の70%が「留学生」、教員の90%が外国人

・全校生徒が国際バカロレアの資格と日本の高校卒業資格の両立を目指す

・生徒の70%近くに経済状況に応じた奨学金を給付

・20168月には3期生を迎え全校生徒が揃う(39の国と地域から)

・授業はすべて英語

 

ISAKのモットーにあるように、一度しかない人生、自分の個性を生かして思い切り生き、自分の立つ場所から世界を変えるための学習の場を提供しています。

小林氏は、ここ(ISAK)にいたるまでは、自分を捜しながら行ったり来たりしてきた、といいます。高校を1年生で退学した後、経団連の全額奨学金をうけ、カナダの全寮制インターナショナルスクールへ単身留学。留学先で「あなたは何をやったら誰にも負けませんか?」と問われ、自身の取り柄の無さに打ちのめされてしまいます。そんな時にメキシコの友人宅にホームステイをすることになり、彼らの生活ぶりに、貧困による教育の不均衡を目の当たりにしました。小林氏は自身が恵まれていた事に初めて気づき、そこから突き動かされたように猛勉強を始めます。そして日本に帰国、大学で開発経済学を学び、社会に出ました。就職先はどこも学ぶことが多くエキサイティングではあったものの、働く目的や、働き方など、「何か」が自分にフィットしないと感じることの連続だったとのこと。転職を繰り返し、大学院で国際教育政策学を学び、修士取得後、2006にユニセフのフィリピン事業所でプログラムオフィサーとしてストリートチルドレンの非公式教育に携わることになります。これが小林氏をISAKへと向かわせる転機となり、その後、ISAKの発起人との出会いを経て帰国、ISAKの立ち上げに挑むことになりました。

 

今までにはない学校を作るという大事業で、どのような苦難があったのか。真っ直ぐと前を向きながら、大きな問題点を2つ語ってくれました。まずは資金集め。ISAKを立ち上げる為に帰国したのは20088月、しかしその一ヶ月後にリーマンショックが発生。それにより、出資予定者が出資を撤回せざるをえない状況に追い込まれてしまい、計画は大幅な変更を余儀なくされてしまいます。

 

次に文部科学省や長野県庁などの許認可関連。行政の皆さんは主旨に共鳴して必死で応援してくれいたものの、何もかもが初めての事だらけの学校の設立は困難を極め、一つ一つ細かな許可を得るために、小さいステップを踏み、工夫を重ね、説得をし続ける必要がありました。

 

そして、プロジェクトを通じて学んだ3つのことについて。

 

まずは「共感力」。プレゼンを成功させるには、相手に共感してもらわなければなりません。自分を突き動かすような熱い気持ちがなければ、人の心を突き動かすことはできません。頭で考えた事業よりも、心の底から自分はこれがしたいと思う事業の方が、強い所以です。

 

次に「感謝力」。2012年まで、運営はすべてボランティアで行っていたそうで、このボランティアの力が無ければ、ここまで来られなかった、と小林氏は語ります。各々が自分の生活や日中の仕事があり、100%ISAKのために動くことは出来ないけれど、やっていただいたこと一つ一つに心から感謝すれば、一人一人が「自分はこの事業のかけがえのないメンバーなのだ」と感じてくれる。それが大きな力になっていきます。

 

そして最後は「楽観力」。小林氏の好きな言葉の1つは、エミール=オーギュスト・シャルティエの「幸福論」にある、「悲観は気分に属するが、楽観は意志である」という言葉。ダメかもしれない、と悲観する事は「気分」、悲観の材料は自分の意思で取り除くことができる。そういう意志をもった「楽観力」があれば、自分の道は自分で切り開いていけるのではないでしょうか。

 

教育現場に真摯に、真剣に取り組んで行く。苦難も困難も「自分に問い続けた」ことを芯に持ち、自ら道を切り開いてきた女性、小林りん氏。彼女の人生の一端にふれることのできたスカラー候補生達は、何を見いだすのでしょう。

 

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