TTTop Runner Talk
2017.02.16

スカラー候補生 定例プログラム

表現するということ
平田オリザ(劇作家、演出家)

2017年2月のトップランナー講義は劇作家、演出家の平田 オリザ 氏による「表現するということ」。平田氏は16歳の時に自転車で世界一周した後、旅行記を出版して作家としてデビュー。大学在学中には『劇団青年団』を結成し、劇作家としての活動を開始します。代表作は世界各国で公演されている『東京ノート』。劇作家、演出家以外にも、劇場経営者、大学教員、日本劇作家協会やNPO法人ワークショップデザイナー推進機構の理事、大阪創造都市市民会議発起人、2009年から鳩山由紀夫内閣で内閣官房参与など、幅広く活躍している平田氏。今日はいったい何を話してくれるのでしょうか。

 

「演技が上手だと感じる俳優と、下手だと感じる俳優って、何が違うと思う?」

平田氏はスカラーたちに質問をしました。「リアリティーがあること」と一人のスカラーが答えました。「いいね。じゃあ、リアリティーってどんなことだと思う?」平田氏はスカラーの言葉を引き出しながら講義を進めます。

上手い俳優と下手な俳優、その違いは「マイクロスリップ」という無駄な動きにあることを研究の中で導き出したことを平田氏は説明しました。一般に、俳優は練習を積むことで無駄な動きがなくなっていきます。しかし、どんなに練習してもマイクロスリップが適度に残る俳優がいる。そして、これが「上手い」俳優なのだろう、と結論付けられたそうです。興味深いことに、この研究結果は、大阪大学の石黒浩教授との出会いによって「どうやったらアンドロイドが人間に見えるようになるか」という研究に発展しました。これからの社会でアンドロイドが人間と共存する時、人間に「怖い」と思われないようにするにはどうすればいいか?平田氏はマイクロスリップをあえてプログラムに組み込むよう指示し、見事に成功。そう、平田氏がアンドロイドを「演出」しているのです。近年大いに発展しているロボット研究と2,500年の歴史をもつ演劇とが結びついた瞬間です。

 

続いてはゲーム形式のワークショップ。平田氏の質問にスカラー候補生たちは自分たちなりの答えを口にしながら、会場内を右へ左へと移動します。ワークショップを経て、すっかり緊張のほぐれたスカラー候補生達に、平田氏は「僕たちがやっているのは現代アートなのだけれど、現代アートはよくわからない、とよく言われる。わからないってどういうことだと思う?」と問いを投げかけました。

 

平田氏は一通り、スカラーの意見を聞いたあと、アートのもつ意味合いの変遷という視点から再び説明を始めました。

 

芸術とは表現するということ。人間はそれぞれの体験を伝えるために、表現をしてきました。そしてまた、単調な暮らしの彩りとしての祭事が芸能、ひいては演劇の起源となった。

 

近代まで、芸術は情報伝達の為の重要なメディアでした。そのため、作り手はテーマを受け手にきちんと伝えるという大前提がありました。ところが、現代になると他のメディアが発達し、芸術は情報伝達という役割を失うことになった。そのとき、芸術は何を目指したのでしょうか。平田氏はこういいます。

 

「伝えたいことは何もない。表現したいことは山ほどある」

 

私たちは社会生活を営むために、潜在意識、つまり闇の部分を抑えて暮らしていますが、それには少しずつ違いがあります。そのほんの少しの精神の振幅を拡大して舞台に乗せることしか演劇の役割はないのだ、と平田氏は言います。

 

演劇などの作り手は作品を通して「私の中にある世界」、あるいは「私に見えている世界」を表現します。その世界観は強い影響力をもち、そのため、現代アートを見た観客は主体的な意見や感想を持つことが多くなります。つまり正解がないことが現代アートの特徴だからこそ、現代アートは「よくわからない」でいい、と平田氏は語ります。

では、現代アートにはどんな機能があるのでしょうか?平田氏は障がい者アートに関わった経験から気づいたことについても教えてくれました。それは、突出したもの、欠落したものが「あらわ」になって来るのがアートであり、私達が普段の生活では見えていない(見なかったことにしている)ものを表に現して人々に突きつける、それがアートの一番の仕事なのではないか、ということでした。そして、現代アートは都市型ストレスにさらされている現代人に、自分を再確認する作用をもつのではないか、と語りました。

 

私たちには見えないもの、感じているものを表す「表現」という手段があります。様々な表現手段を使って、言葉では伝えきれない「何か」を伝える努力をすること。それも「人間らしさ」の一つのあらわれなのかもしれません。

 

人間とは、人間らしいとは何か。それを見つめ続けてきた平田氏の鋭いまなざしに射抜かれ、スカラー候補生たちは何を感じたでしょうか。

 

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