2018年6月のトップランナー講義はテレビでもご活躍なさっている料理研究家の土井善晴氏の『食べることで感じること』。土井氏は、料理研究家という仕事は、「人がしあわせになることを一番研究すること」であり、料理は「単に作り方を楽しむということよりも、生きることと通じるもの」であるというお話を伺いました。
「今日もみなさんは朝ごはん、昼ごはんと食べてきたのかな。食べたら元気になるし、頭の回転も体も動くようになるね。お腹が空いて本当にへとへとになったらどうだろうか。走れなくなることもあるね。お腹が空いて、機嫌が悪くなったりすることもあるよ。お腹っていうのは自分たちの心とつながっているなと感じがするね」
土井氏の言葉に子どもたちは大きくうなづきます。食べないと生きていけません。これはどんな植物でもどんな動物でも栄養を取らないと生きていけないのです。では人間と動物が食べているものに違いはあるのでしょうか。
「生物か生物じゃないか、焼いたか焼いていないか」と子どもたちが答えます。
そのとおり!人間は料理しているものを食べるのです。お刺身もちゃんと安心して食べられるような技術を持っています。人間はシマウマのお尻にかじりついて、その肉を噛みちぎるなんていうことは絶対できないわけです。
人間は石器時代、道具を使うようになると今までの肉の塊が、肉を噛みちぎることもできなかったことが生の肉も砕けば食べられるようになったり、木の根っこも何時間もかかっていたものが先に叩いておくと柔らかくなって食べやすくなったりするということがわかるようになりました。さらに、今から100万年前には火を自由に使えるようになったのです。
「料理をすることで、消化が良くなります。本来、消化は体の中で行われることですが、料理は消化行為を体の外でやっているのです。料理が行われるまで人間は、相当なエネルギーを消化のために使っていましたが、その余ったエネルギーを脳に使えるようになりました。すると、いろんなことを考えられるようになり、自由な時間を持ち、余暇と言うものが初めてできたのです」
料理することが、人間の生活を変えたことになったという土井氏の言葉に、会場のみなさんはどんどん惹き込まれていきます。
続けて、食事をすることにたくさんの意味があることや料理を見れば五感が働くことなど、ただ空腹を満たすだけでないことを話します。
「目でみて美味しさを見つけることができます。情報(賞味期限や成分表など)を信じるよりも実際に質感や色など自分の目で確かめたり、感じたりしたことを大事にしてほしいです」
土井氏は子どもの頃の経験が創造力を広げることに繋がることを教えてくれます。梅を漬ける梅雨のころ、雨が降ってても紫陽花が咲く場所は明るかったこと、初生りのなすを見て夏が来たと感じたこと、餅を見れば、餅つきをしたときの雰囲気や空気を思い出すことができます。家庭料理には食べ物を作る喜びがあり、安心して食べることは、自分の居場所があることや、自信が持てることにつながります。
おいしい料理を創るには秘訣があるのでしょうか。
「秘訣は想像力を使うことです。技術は必ずしも必要ではないのです。食べることを経験していたら料理は誰でもできます。料理ができる人は人を幸せにする力がある人なのです。五感は伝えることができますが、味や匂いは一緒に食べた人しか共有できません。一緒に食べるということは自分で自分を幸せにし、相手を幸せにすることができるのです」
身近な話題に子どもたちの質問も尽きることがありませんでした。