TTTop Runner Talk
2019.03.30

全国説明会 in 館林

科学の大発見にアートは必要か?
鈴木康広(アーティスト・武蔵野美術大学空間演出デザイン学科准教授)

2019年3月30日、2019年度全国説明会in館林で開催されたトップランナートークに、アーティストの鈴木康広さんをお迎えしました。

 

「勉強では他の人に敵いませんでした。社会に出て、自分が役に立てるとも思っていませんでした。」子どもたちは真剣な眼差しで、鈴木さんにのお話に引き込まれます。

 

最初の話題は、高橋さんが瀬戸内芸術祭で発表した作品「ファスナーの船」についてです。まるで海を開いているように見えるこの作品は、一体どのようにして生まれたのでしょうか?

 

「ファスナーの船」の実現は、小さい頃からの夢のひとつ。鈴木さんはこの構想を、瀬戸内芸術祭の公募枠に応募しました。しかし結果は、落選。

 

その後、偶然に芸術祭の責任者に会う機会があった時にこう聞いたそうです。「芸術祭から連絡がないのですが」すると「面白いアイデアだとは思うけど、実現性が低いよね」と言われてしまいました。

 

鈴木さんは「ここで諦めたら、絶対にだめだ」と思い、「できるかどうかを検証するので時間をください」と、1ヶ月後に会う約束をしました。その後すぐに美術館から造船所の方を紹介していただき、その日のうちに船に乗りに行ったそうです。

 

「船は夕方の海を全速力で駆け抜けていきました。それはものすごい速さで、風も強いし、僕はずっとしがみついていました。でもそこで見た引き波が、完全にファスナー見えて、これはいける! と思いました。僕は船を降りてすぐ船長さんにそのことを伝えると、船長さんも、こいつは本気なんだな、と思ったようで、使っていない船を譲ってくださることになりました。これが瀬戸内芸術祭でのファスナーの船の実現につながったのです。」

鈴木さんはこの時、自分の中から「実現して、誰かに伝えたい」という気持ちが湧き上がるのを感じ、それからメディア技術を用いたパブリックアートの実現にむかって、突き進み始めました。そんな中写真を撮影していると、一見見間違いとも取れる瞬間のなかに、科学的で、豊かなひらめきが隠されているということに気が付きはじめたといいます。

 

ファスナーに見える船、ダチョウに見えたキャベツ、横顔に見える雫のような普段とは違うモノの見え方がある瞬間、その原体験は、中学生の頃の恩師から教わったけん玉でした。

 

「中学校の頃の恩師の先生が、僕たちの教室にだけ、けん玉を置いてくれたんです。後で聞いた話なんですが、どうやら小学校から中学にあがったみんなが死んだような目をしていて、これじゃあいかんと思ってけん玉を持ってきたようです。クラスでは勉強も運動も自分よりできる人がいました。でもけん玉は僕が一番できました。まさかアーティストになってから、けん玉の作品を作るとは思いませんでしたが。」

 

鈴木さんの作品「りんごのけん玉」は、「暇つぶし」をテーマに制作作りが始まりました。制作を進めていると、ふと地球の引力と共にけん玉があることを気付き、それがニュートンと繋がっていきます。これは、ファスナーと船が繋がった時に似た発見でした。

最後にはこんなお話で、講演を締めくくります。

 

「作品の制作過程では「それが何の役に立つのか?」と問われることも多いです。ただ、気付きのための時間や、余白のようなものはとても大切で、それがヒマかヒマじゃないかとしか表現できないような社会はゾッとしてしまいます。私のアート作品は、見間違ったものから何かをすくいとっていくところからはじまります。科学の発見にも、間違いからスタートしたものが少なくありません。自分のやっていることが、こんな風に役立っているということを全て説明しなければならない社会は、とても大変です。そういう社会の中でこそ、不思議なことや、新しい物事を考えるための余白というものが大切ではないでしょうか。」

 

一見暇つぶしのように思えるものごとの奥にも、世界の不思議、科学の広大さが隠れている。時には、そういった発見を得るための余白のような時間をもつことが大切かもしれません。子どもたちは、ふだん目にするの風景の中からも、視点を変えると見えてくる大発見に、心を奪われたようでした

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